私には、ふとした瞬間に、無性に会いたくなる人が何人か居ます。
今日は、その中の一人について書いてみようと思います。




その人は、高校生の時に出逢った人で、同じ高校の同じ学科、同じ部活の一つ上の先輩です。
この間、本当にバッタリその人と会ったので、書いてみようと思ったわけです。



彼を初めて見たのは、その部活を見学に行ったとき。
友達と恐る恐る覗いたその部屋で、一人黙々とドラムを叩いていました。
中学生から音楽にのめり込みはじめ、ドラム好きだった私は「わ、この人巧いな」ってなんとなく思った。
彼は、部活サボりの常習犯だったけど、ちらっと出ては、バチッと極めてくれるカッコイイ人だった。
しれっとしているクセに、自分の考えや意見は臆することなく言ってのけるような人。
そう思っていて、ずっと憧れていた先輩だった。



その彼が、卒業してしまい、もうそう簡単に会うことは無いのだろうと思っていた2年後。
私と彼はまた再会することになった。
それから、連絡先を交換し、たまには会うようになった。



そして、私達は、「大人」と呼ばれる年齢になっていた。
全く別々の生き方をする私達は、会うとたくさんの話をした。
なんでもソツなくこなすと思っていた彼も、多くのことに悩み、不安になり、責任を負って生きているんだと実感した。
当たり前のことなのだけど、やっとここまできて実感した。
それからも、様々な話をした。
バカみたいな話から、情けない話まで。
だけど、彼は昔と変わらない私の憧れの先輩のままだ。



何故かと考えれば、一番は、彼の言葉に嘘がないからだ。
何事も隠さずに、すらっと話てみせる彼はやっぱりカッコイイのだ。
人間の裏にある、負の部分を話すことは、恥じる事ではない。
そんな話をしたからと言って、人間の価値はこれっぽっちも下がったりはしない。
大切なのは、その言葉一つ一つに嘘を混ぜないことだと思う。
彼を見ていると、そう感じる。


そして、自分が楽しいと思うこと、自分が好きだと思うことを迷わずにやってのけること。
迷わずに、とは語弊があるのだけれども、迷いながらも、好きだと思うことを続けていくこと、の方が近いかな。
自分が楽しいと思うことを、やり続けている人っていうのは、どっちに向いてもカッコイイ。
ただ、その楽しいと思うことを続けていくには、計り知れない苦労や迷いもあるんだと思う。
私はただなんとなく、大人になり、会社に勤めているから、そのことについてはわからない。
だけれども、「好きなことをやり続ける」ということを、これから本格的に始めようと思っている彼は、疑いようもなく煌く瞳をしているのだ。
会った時は、いつも「疲れた」や「辛い」と言っているが、彼の瞳が煌きを失っていたことは一度もない。これからも無いと思いたい。



なんだかわからない不安定さが残っている彼の作り出すモノは、なんだかわからない不安定さを宿した私を強く抱きしめてくれる気がするのだ。
いつも励ましてくれて、ありがとうと、私は、彼を思い切り抱きしめたくなった。
男と女とかじゃなくて、不安定さを、その作り出されるモノでどうやってか正常に保とうとしている人間同士として。
まだ、上手に真っ直ぐ歩けないから、そのモノを通して、私達は抱きしめあって生きている気がする。
そのモノを好きでいる皆がそういう風な気がする。気のせいかもしれないけど、そんな気がする。




きっと彼は、もっと大きな人になると思う。
倒れてしまう前に、誰か優しい人の手を掴んでくれたら良いと思うけど。
だけど、彼の周りには、好きなことを続けてきたカッコイイ大人がいるから、きっともう大丈夫だと思う。
そんな人達に出会えた彼は、きっと幸せ者だね。


そんな彼に出会えている私も、間違いなく幸せ者だよ。